ゴルフが1年できなかった左肩の痛みに対し 鍼治療と運動療法の併用にて競技復帰可能となった症例 ~触診と超音波エコーを活用して~

第5回JOSKAS:in 札幌コンベンションセンター H25.6.21(金)

(症例)

46歳男性。ゴルフ歴26年。3~4年前にプロゴルファーからゴルフスイングの仕方を教わった際に変なスイングをしてしまった時から左肩の痛みが出現。1年前から痛みが増強し整形外科受診したところ、X-P上問題ないと言われた。しかし、その後1年間、リハビリ等も行ったが左肩の痛みに変化がみられず、ゴルフもできないため当院にて治療開始となる。初診時評価、左肩屈曲ROM150°(P+)、外転150°(P+)、肩峰下から三角筋粗面にかけて圧痛(+)(図1参照)、超音波エコー所見:三角筋中部線維筋内腱および深層の筋線維に高エコー像(+)(図3左参照)。ADLおよびAPDL上は支障ないが、ゴルフスイングを行うとバックスイングが行えない状態であった。

【治療経過および結果】

三角筋中部線維起始部から筋内腱に沿って停止部である三角筋粗面(図4参照)まで1cmの深さで鍼治療を施行した後に、左肩active-assistive ROM ex.を最終可動域まで行った。初回治療終了時、肩峰下における圧痛(-)、左肩屈曲および外転ROMはfullまで改善した。週1~2回のペースで鍼治療&左肩ROM ex.を行ったところ、4回目の治療時はex.前の痛みが初回治療前より1/10となり左肩ROMもfullであったため、鍼治療は継続し運動療法をROM ex.から左上肢PNFに変更した。治療4回目以降は、日常の治療に加えself ex.としてゴルフスイングの練習を許可した。治療開始から2カ月後に、ゴルフ大会に参加することが出来た。超音波エコー所見:三角筋筋内腱周囲高エコー像(-)(図3右参照)。

【考察1:圧痛部位と超音波エコー所見から疼痛部位と考えられる三角筋筋内腱について】

三角筋の内側面には、筋内腱(起始腱と停止腱)が存在している(図5参照)。今回の症例において、変なスイングをした時に三角筋筋内腱に過度な収縮が入ってしまい、受傷時から1年以上疼痛が持続していたことが考えられる。

【考察2:なぜ治療効果があったのか】

まず最初に、触診により左三角筋に圧痛を訴えた部位は、超音波エコーにより三角筋の筋内腱であると考えられたが、軟部組織性疼痛を引き起こしている部位が触診と超音波エコーにより正確に同定することができたことが考えられる。次に、この部位に三角筋筋内腱の走行、深さ、疼痛部位を正確に同定し、そこに鍼刺激を加えることができたことが、疼痛が軽減した原因であるものと考えられる。1年間肩の痛みがあったことにより150°以上屈曲挙上したことがなかったため、それによる廃用性筋萎縮や関節拘縮が起きていたことが考えられた。それに対して、疼痛の原因となっている軟部組織に対する鍼刺激を施行した直後に、関節に一番負担がかからないactive-assistive ROM ex.を行えたため、痛みなく全可動域動かすことができたものと考える。三角筋筋内腱は、組織の解剖学的構造から検討すると、温熱刺激や電気刺激などによる物理療法を行っても疼痛を軽減することは困難であったものと推測される。

【考察3:鍼治療と運動療法の併用による治療効果について】

慢性のスポーツ傷害に対して演者は、慢性の野球肘に対して1回の鍼治療で触診と超音波エコーの活用により著明な改善を得た症例を、第62回全日本鍼灸学術大会で報告している(下記スライド参照)。今後、軟部組織性の疼痛(肉離れ、捻挫、軽度の靭帯損傷etc.)に対する様々なスポーツ傷害に対して、鍼治療で改善する場合と鍼治療と運動療法の併用で効果がある場合があるものと考えられる。例えば今回の症例のように、疼痛を引き起こしている期間が長くて自動運動が自発的に制限されていた場合には、鍼治療と運動療法の併用が効果的であるものと考える。

【結語】

触診及び超音波エコーの活用により適切な評価を行った後に鍼灸療法と理学療法を併用することにより、慢性のスポーツ傷害に対する治療効果が今後期待される。

【参考および引用文献】

1)  昭和大学藤が丘リハビリテーション病院編: これだけは知っておこう肩の診かた治しかた, メジカルビュー社, 2004.

2)  林光俊他編: ナショナルチームドクター・トレーナーが書いた種目別スポーツ障害の診療, 南江堂, 147-163, 2007.

3)  松本勅著: スポーツ鍼灸臨床マニュアル普及版, 医歯薬出版, 2008.

4)  日本体育協会監修:, スポーツ医学研修ハンドブック基本科目,第1版第6刷, 文光堂, 2009.

5)  日本体育協会監修:, スポーツ医学研修ハンドブック応用科目,第1版第6刷, 文光堂, 2009.

6)  皆川洋至著: 超音波でわかる運動器疾患, メジカルビュー社, 2010.

7)  宗田大編, 米田實他著: 復帰を目指すスポーツ整形外科, メジカルビュー社, 514-515, 2011.

8)  菅谷啓之編, 望月智之他著: 肩と肘のスポーツ障害 診断と治療のテクニック, 中外医学社,2012.

9)  坂井建雄監訳:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系, 医学書院

「株式会社ゼニタ 代表取締役社長 銭田良博」 ページへ戻る